奥田英朗『イン・ザ・プール』

伊良部、精神科医……なぁんか訊いたことあるなぁと思ったら、やはり数年前にTVドラマ化されてました。自分は全く観ていませんが、キャストを確認したところ、少なくとも伊良部本人とマユミについては原作のイメージとは全く違うように感じられるので、未見の方は極力そうした事前情報を排して本作を読んでいただきたいと思います。

奥田作品は長編と短編集を1冊ずつしか読んだことがなかったのですが、強迫的に不幸へと転がり落ちていく様を描かせたら天下一品だわ…と思っていたら、まさに本作もその様相。しかも各話共精神科を最後の砦としてやってくるような人々が主人公なので、そりゃぁまぁその転がり落ちる傾斜角度たるや半端じゃありません。しかし、どんな強烈な思い込みの患者が訪れても、超絶マイペース振りで対応する伊良部医師とマユミさん。結果的には、それぞれの患者達の症状は改善していくわけですが、それがあくまで自分達の気付きによるものだというところが本作の肝です。マイペースな医師と看護婦はあくまで触媒であり、展開に全くお仕着せがましいところがありません。

ピタリということがなくても、本作で取り扱われている症状群には、ある程度のシンパシーを感じられるという人が多いのではないかと思われます。症状というよりも、そこに至る背景に身につまされることで、リアリティを感じることになるわけです。そうだからこそ、各話で主人公達がリカバリに向けて踏み出す時に、読んでいる側も安堵と共に細やかな幸福感を得ることになるのです。

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