東野圭吾『嘘をもうひとつだけ』

偶然にも直前に読んだ長編で、犯人をじわりじわりと追い詰めた加賀恭一郎警部補を主人公とした短編集。乱暴な喩えをしてしまえば、愛想がなくやや事務的な刑事コロンボとでもいいましょうか。しかし、本作においてはその淡々とした態度が、犯人側の心の動きにダイナミックに影響しているようです。

短編集というと、普通は特に気負いもなく作者の得意とする世界観に身を委ねることになるのですが、加賀警部補が入ってくるとなると、そういうわけにはいきません、それで、ある程度姿勢を正した上で、はてこれはこれらはどういうテーマでまとめられた作品集なのかな…ということになります。読み進めるうちにすぐにそこは判るはずなんですが、背景のバリエーションに、作者の抽斗の多さを実感することになるでしょう。最初のエピソードを読んだ際に、この作品の「傾向と対策」的なものは自然と解るはずです。短編なので、話中の登場人物から早期に犯人を特定するのはかなり容易なのですが、本作においては犯人を推理することは全く以って目的とはなりません。人間が犯行に至る背景って、これだけバラエティに富んでるんだな…と感じ入ることができるというのが面白いところなのです。

とりわけ、子を持つ親として犯行の動機に同情を禁じ得ない2話目、解りやすい引っ掛けながらこれも理由を思えば切なくなる3話目、そして驚愕の「予期せぬ出来事」の連続の末に耽美的な最期を迎える4話目が、出色かと。

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